大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和52年(行ツ)85号 判決

東京都中央区日本橋馬喰町一丁目七番一二号

上告人

株式会社旅粧高橋製作所

右代表者代表取締役

高橋佐久三

右訴訟代理人弁護士

水上喜景

菅谷幸男

東京都中央区日本橋堀留町二丁目五番地

被上告人

日本橋税務署長

高橋照忠

右指定代理人

五十嵐徹

右当事者間の東京高等裁判所昭和五一年(行コ)第二八号青色申告承認取消処分等無効確認請求事件について、同裁判所が昭和五二年四月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人水上喜景、同菅谷幸男の上告理由第一点及び第二点について

原判決が本件青色申告承認取消処分に係る通知書に記載された理由が法人税法一二七条二項により要求される理由の附記として十分なものであるとの判断を示したものでないことは、原判文に徴し明らかである。論旨は、原判決を正解せず、原判決が右判断を示したものであることを前提としてその違法をいうものであつて、採用することができない。

同第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠関係及びその説示に照らし正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山亨)

(昭和五二年(行ツ)第八五号 上告人 株式会社旅粧高橋製作所)

上告代理人水上喜景、同菅谷幸男の上告理由

第一点 控訴審の判決は、民事訴訟法第一九一条一項三号・同第三九五条第一項六号に違背しているものと信ずる。

一、右同号は、判決には理由を附すべき事を定めている。

二、ところで、上告人は被上告人が上告人に対する青色申告承認を取消すに当り、「貴法人の青色申告の承認は、次の事実が法人税法第一二七条一項第三号に該当するので、自昭和四二年九月一日至昭和四三年六月三〇日事業年度以後これを取消したから通知します。(取消処分の基因となつた事実)法人所得の一部を除外して裏預金を設けている。」と記載されているが、右の記載のみではいかなる根拠・資料に基づき裏預金と認定したかゞ全く不明であるから、このように抽象的な理由だけでは、理由を付記しないのと同視すべきで、之には重大・明白な瑕疵があり、右取消処分は無効である旨を主張した。

三、然るところ、控訴裁判所は「……その余の各請求は理由がなくいずれもこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決の理由説示と同じであるからこれを引用する」としているから、第一審判決に瑕疵があれば、それは取りも直さず控訴審判決の瑕疵とみるべきである。そこで第一審判決をみると、同判決は「右処分に係る通知書に原告主張の記載のあることは、当事者間に争いがない。しかしながら、たとえ右の記載では理由の付記が不充分であるとしても、その瑕疵は、右処分を無効ならしめる重大な瑕疵ということはできず、単に取消事由となるにすぎないというべきである。また後記三(二)認定のとおり、原告が裏預金を設定していないことが明白であつたとはいえないから、この点についても無効原因は存しない。……理由がない」と判示している(附点は上告人)。

四、扨て右判決は、「これこれの理由からして、被上告人がその処分に記載した理由の付記は充分である」旨の判断を明白には為さず、之を言外に含めたものと思われるが、いきなり「……たとえ右の記載では理由の付記が不充分であるとしても……」と仮定判断をしているが、それは論理的にみれば「記載は充分であつた」と判断している事になる筈であるが、言外と秘すことによつて、その言外の判断事項(充分である)については、判決の理由を述べていない事になると思われる。

五、そうすると、右は上告人の「理由の付記がない」との主張に対する明確な判断を遺脱し、従つてこれに対する判決の理由を付さないのと同視出来る場合か、不充分・不明瞭な場合であつて、その事は民訴第三九五条第一項第六号に該当する上告の理由となるものと思料する。

第二点 控訴審判決には法令(法人税法第一二七条)の解釈の誤りがあると思料する。

一、 右法人税法第二項が所定の「附記」を要求している趣旨は、単に形式的に該当条項を示すのみでは足りず、その通知書の記載からいかなる態様・程度の事実によつて当該承認の取消がなされたのかを知ることができるのでなければならないのである。蓋しそれは、「……処分の相手方は帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性が疑わしいとされた理由が取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装したことによるのか、それともそれ以外の理由によるのか、また、右の隠蔽又は仮装が帳簿書類のどの部分のいかなる取引に関するものであるか等を、その通知書によつて具体的に知ることは殆んど不可能である」からであるし、一方処分庁は既に具体的な調査を経ている筈であるから、……困難な事務処理を強いられるものでもないと言う事によるものである(最高昭四七(行ツ)七六号昭四九・六・十一、三小判)。

二、ところで、右によつて本件をみると、前掲の如く、「法人所得の一部を除外して裏預金を設けている」と記載されているのみであつて、そしてそれは謂ば条文の文言と略同様であつて、如何なる根拠資料に基き何をどの範囲で裏預金と認定したか 全く不明である。即ち、法人所得の除外分と認定したのであれば、それは「売上計上もれ」「仕入過大計上」等具体的事実があつてこそ始めて発生するものであり、亦、定期預金の資金源泉には、「借入金の発生」「定期預金の異動」「貸付金の返済」等損益取引に関係なく、資産負債取引によつても発生する事があるからである。

そして、本件で問題とされた他人名義の預金についても、それは原告代表者個人又は、一部は同人の妻の個人預金であり、その事は該「取消決定」当時同人らに於いて、同人等の預金が上告人の裏預金と誤認されているとは全く思つていない。ましてや上告人自身が自らの裏預金等との認証は全くもつていないのであるし、帳簿調査が必須であるのにこれもしなかつた本件では、前記通知書記載のみでは具体的に知る事が不可能である。

三、然るに、被上告人の前掲記載を以つて同法が要求している附記理由として充分と判断した控訴審判決は、前掲法条の解釈を誤つたものと言わざるを得ないのである。

第三点 重大な事実誤認があるものと信ずる。

一、 本件は上告人代表者個人の架空名預金を以つて上告人の裏預金と(誤)認定して、青色申告承認取消処分をしたのであるが、前記の如く被上告人は何ら〈1〉帳簿調査を為さず(その詳細は上告人の昭和五二年二月二三日附準備書面第三項乃至第五項を援用する)、独断推計を以つて事を処理したものである。この場合被上告人は上告人から乙第一号証(申述べ書)を徴して行つたものの様ではあるが寧ろそれのみによつたものとみるべくこのことは補強証拠なく、言つてみれば〈2〉自白(乙一号証)を偏重したものであつて、右〈1〉・〈2〉の事は法文に「……その記載事項の全体について……相当の理由と規定されている事の趣旨にもとるものである。この為他人名預金である事により他人性の明白な預金の帰属認定について、之を上告人の裏預金とすることにより重大な事実誤認を犯したものであり、原判決は被上告人の右重大なる事実誤認をそのまま認める事により同様の過ちを犯したものであり、従つて破棄されるべきである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例